クリニックブログ
南馬込おかばやし耳鼻咽喉科のクリニックブログです。
病気や治療のことに関わらず、日々のクリニックの様子など日常的なことを書いていけたらと思います。
診察しなければわからないこと(2024.4.5)
4月になりました。ブログ更新が少し滞っておりました。皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回は少し難しい話になりますが、もし時間があるようであれば目を通してみてください。
耳鼻咽喉科は、頭頸部の疾患すべてを診察対象とするため、アレルギー、感染症、この2つをいずれも理解する必要があります。
一般的に言われている事実と、臨床上認められる事実が、同じケースである場合と、相反する場合があります。
この場合、基本的には臨床上認められる所見及び臨床経過をもっとも優先すべきと考えます。
事実、今まで一般的な医学知識での判断での投薬で改善を認めない場合に、粘膜所見の変遷から考えられうる病態の推察が功を奏したことが極めて多いからです。
患者さんの自覚症状は極めて大事です。病歴と治療歴、既往歴の把握で、ある程度病態を推察できますが、一方で自覚症状は間違えた診察を導くことがあります。
たまにあるのですが、患者さんは透明な鼻水がずっと出ていて、痰などは出ていないといわれる際に、経過が長く急性副鼻腔炎を疑う場合、ファイバースコープを通すと明確に膿性後鼻漏を認め、急性副鼻腔炎であることが良くあります。
自覚症状だけであれば、一見するとアレルギー性鼻炎かと考えてしまいますが、急性副鼻腔炎なのです。
アレルギーと炎症ですから、まったく治療の方向性が変わります。
このケースで肝心なのは、経過長くどうもおかしいなと思う懐疑心、そして実際に局所の所見を自分の目で確認する、すなわち検査、そして同じ患者さんでも局所の所見は時間経過とともに変遷し、特にアレルギーと炎症が同時に存在する場合、拮抗関係にあるこの2つの病態が一定のパワーバランスを保ちながら変遷していくということなのです。
これは粘膜所見に非常によく反映さえており、事実同じ患者さんでファイバースコープの記録を都度残していくと、それが顕著に認められるようになります。
これは皆同じように変遷するわけではなく、その方の持つ体質によって変わる為、一概にこうなりますと言うことはできません。
よくある、風邪をひいた後に咳喘息になるというのはこれにあたります、しかしこれも明確に気道炎症→喘息となるのではなく、その中間的な病態が存在し局所の粘膜所見をみればそれが一目瞭然なので、どのように薬を調節すればよいかが分かるようになります。
この事実は、なかなか総合病院で勤務しているうちは気づきにくいものでした。
何故ならば、急性副鼻腔炎の温存的治療を総合病院で行うことはほぼ無いからです。
クリニックで局所の粘膜所見を、都度いらっしゃる患者さんと話し合いながら確認し、病態を都度判断しなおすことで、次第に見えてくるようになりました。
それだけでなく、免疫学や微生物学の専門的知識も非常に有益でした。
目に見えない細胞レベルの病態を自分の頭で理解するためには、やはり専門書の通読が必要です。
臨床に関わる医学書は、あくまで臨床についての本であり、基礎医学書の代わりになるわけではありません。
基礎医学は学生以来、振り返ることはあまりないものでしたがこうして改めて振り返る機会を得ることで、非常に有益であったと思っています。
もちろん自分のまだ知らぬ病態も必ず存在するため、引き続き勉強を続けていくことが大事だと思っていますが、何よりも実際の診察の際に、なぜこのような事になったのかと振り返ることからすべて始まっているため、今後もこのような考えを大事にしていきたいと思っています。
また、こういった経験を重ねるほど、実際に診察しなければわからないことがどれほど多いかと痛感します。
当院がオンライン診療を積極的に活用していないのは、このような理由があります。
オンライン診療は局所の所見を得ることに極めて相性が悪く、基本的には慢性的な疾患に対して行うほうが良いと考えます。
新年のごあいさつ(2024.1.5)
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
去年はCOVID-19が5類感染症扱いとなり、非日常から日常へ戻っていく年でした。
感染症の流行は例年に無い経過となっており、日常で罹患する疾患に、非日常であるがゆえに罹患する頻度が落ちた影響かと考えています。
特に溶連菌感染症が目立ちます。
溶連菌感染症は、通過菌である溶連菌が上気道粘膜に感染を起こす病気で、一見すると風邪のような症状ですが、特に小児においては、頻度は低いですが溶連菌感染症罹患後に急性腎不全を起こすことがあり、抗菌薬で除菌する必要があります。
型通りの抗菌薬服用後も再燃しやすい方が一定数いらっしゃいます。
溶連菌が細胞内寄生を行うことで抗菌薬の影響を回避しているのではないかなどと言われておりますが、いずれにしても抗菌薬の使用が推奨される疾患です。
しかし初回感染時や、かなり久々の感染の場合などを除き、咽頭所見にはっきりとした所見が出ていない場合も多く、検査して初めてそうだったのか、と知るケースも多いです。
また、ウィルス性上気道炎罹患後に急性副鼻腔炎、いわゆる蓄膿症に移行される方も多く見受けます。
蓄膿症についても、好気性菌、嫌気性菌の混合感染が起きているといわれており、抗菌薬の使用が望ましいです。
ただ、数日間抗菌薬を使用して改善するかというとそういうことは少なく、大概2週間前後の使用が必要となるケースが多いように思います。
これは、もともと膿がたまる病気を治療するには、切開排膿などの外科的処置を行うべきなのですが、顔面骨は非常に堅牢であり、穿つのが大変であること、抗菌薬の発達した現代においては疼痛を伴う上顎洞穿刺などの処置よりも、内服薬単独での加療が望まれる傾向にあるため、内服薬だけで経過を追っていくこととなるのですが、内服薬はあくまで血中濃度を維持するために使用方法が決められており、飲んだからといって膿の中に抗菌薬が十分量いきわたるわけではないので、時間がかかるというわけです。
少し難解な話で申し訳ないですが、感冒1つとっても実はかなり複雑なことが起きており、特に1週間以上続いており遷延している場合や、数日内でも疼痛などの症状の程度が強い場合は、診察を受けていただいた方が良いと思います。
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